jun=privacy&SecretなしのOpen House

過去、現在、未来。色々なjun君の全て…。

僕が16歳の時に隣のアパートに住んでいた風鈴が大好きなお爺さん…

16歳の時…

新宿南口、三是(みこれ)寿司というお寿司屋さんで、見習い職人として働いていた僕…。

 

寮は経営者の社長が新宿中央公園近辺、風呂無しトイレ付きキッチン有り、6畳1階角部屋102号室を入社と同時に契約し僕を案内した。

隣の101号室を社長がノックをした。

僕は社長の少し後ろで静かにしていたんだ。

「おはようございます。今日からこの子が隣に引っ越ししたので宜しくお願いします。」と社長が言った。

老け散らかかした汚いお爺さんが、か細い声で答えた…。

「私は風鈴にしか興味が無いんよ。後は年金で死ぬまでこのアパートで住むだけやし、若い子がこんなアパートにの隣に引っ越すなんてのは大丈夫かね…笑」

 

確かに僕ももう少しマトモなアパートはなかったんかい…?とは思ったけれど…

 

「この子はうちの社員で寿司職人の見習いです。何か悪い事でもしたらこちらの名刺に連絡して下さい。」

 

あ。このタイミングで僕は少し前に出て、お爺さんに挨拶をしないといけないと思った。

「お爺さん、今日から帰りはいつも遅いけどどうぞ宜しくお願い致します…。」

「あぁ、宜しくね。風鈴は良いぞー。」

とお爺さんが優しそうな顔をして言った。

 

不気味ではなかったけど…、死ねまでこのアパートの101号室に居るんだなぁ。

と、僕はこんなアパート早く出世して出て行ってやると変なヤル気Switchの心のボタンを連打していた…。

社長と僕はその後タクシーでお店に戻り初めて社会で働き始めた。

 

1ヶ月、2ヶ月が過ぎて、朝から晩まで日曜日しか休みがない中頑張っていたよ。

 

アパートは帰って寝るだけやねん…。

 

寿司屋の近くのマンションに社長の事務所があるから、シャワーをそこで浴びて、お店のキンキンに冷えた瓶ビールを1本持って捨てられそうなマグロの切れはしを切って、原付バイクでアパートへ帰る事を覚えた。

 

帰りはいつも夜中の1時…。

 

窓を全開に開けてTVも無い静かな部屋でビールとマグロ…。時々隣のお爺さんの部屋の外に飾られている色々な風鈴の音を聞いていた…。

 

明日も朝10時には同じ仕込みやランチ、洗い物、出前の配達や桶を取りにあちこち行ってぇ…、えーっと…?って考えながら寝る…。

 

朝、挨拶して以来会ってない101号室のお爺さんに出勤前に会ったんだ。

「あ。おはようございます。お爺さんの風鈴凄いね。一杯色々な音がするよ。」

「おはよう。風鈴は良いぞぉー。穏やかな気持ちになれるんよ。」とニコニコして言った。

 

風鈴かぁ…。あまり興味無いとは言えないから…、

「あ、はい。じゃ僕仕事行ってくるよ。」

 

風鈴の何が良いのか考えたけど、やっぱり分からなかった。

 

僕は昨日飲んだ瓶ビールをリュックに入れ忘れていないか確認しながらバイクで急いで出勤した。

 

危ねー。早く1番乗りで出勤して瓶ビールをケースへ入れないと在庫の数字が合わなくなって酒屋に怒られちまうよ。とギリギリセーフでいつも1番に出勤していた…。

 

ヤベッ!

今考えると店の瓶ビールは勝手に持って帰って、勝手に飲んでケースに返せば大丈夫だと思っていたけれど立派な犯罪やな(マグロの切れはしも、時々ウニも持ち帰ったり)と…。

罪悪感やねん…。

 

あぁ。毎日毎日本当に飲まないと休みも週に1回日曜日だけだし、煙草もバンバン本数が増える…。

 

寮費は40,000円引かれ、勝手に別の銀行を登録され40,000円を貯金され、16歳で給料は130,000円だし…、残りの50,000円は休みの日、コインランドリー代、コインシャワー代、寿司関係の本、煙草代、飲み物、食事、勉強の為に別のお寿司屋へ食べに行ったり…、遊ぶ暇がない…。

 

友達とも会えない日々…。彼女を作れる状況じゃない…。生き急いでいた様な毎日だったんた。

だからあの時の瓶ビール許してくれへんかなぁ…。

なんて自己解決した…。

 

忙しい仕込みや、宴会の予約、出前のオンパレードの中、大雨が続いて嵐の様な連日…。

雨の日は出前の電話で注文が沢山かかって来るんや。

「いつもありがとうございます。三是寿司です。」

って同じ台詞をいつも以上に言わなければならない確定日になるんだぁ。

 

出前の配達で毎日ビショビショ…、桶の回収も沢山。

時々ビルの隙間で雨宿りをして煙草と温かい缶コーヒーを買って一服して店へ戻る。

 

そんな日々が続いて…、風邪引いて熱が凄い状態になって出勤したら店長の親方が…、恐い顔をして、

「帰って休め。」と言った…。

 

「いやいや大丈夫です。早く握りを教えてもらいたいんで…、頑張ります!」

ヘロヘロだったのはバレバレだった。

 

「駄目だ!帰れ!」

この強い口調は本当は僕を心配しているんだとは分かった。

 

でも…、疲れ切っていたせいなのか…、何だか僕は必要とされていないのかな?とか…、ネガティブになりながら、雨の中グッタリしながらそのままアパートで休む事にしたんだ…。

 

初めてだった。平日の昼間にこのアパートで布団に横た わり何にも出来ずにグッタリして、頭はガンガン痛い、熱も絶好調にup。嵐の様な雨風が窓を激しく打ち付け、落ち着いて休めたもんじゃねぇ…。

 

1番恐ろしいのは、隣のお爺さんの大切な風鈴の音がガチャガチャ&リンリン!

 

激しさを増して風鈴同士がぶつかり合ってこんがらがって絡み合って…

 

僕のアパートの窓をその風鈴が飛んでぶち破って来るんやないか?とか…、

 

とにかくうるせぇんだ。あの音は今でも忘れられない記憶…。どう考えても疲れは取れず、頭はガンガン、耳はキンキン…。

 

風鈴を全部、嵐の雨風でぶっ飛んだ様に見せ掛けて、からの、 強く釘で打ち付けられている暴れ狂った10個位の風鈴を全て嵐のせいにして、雨風の強いタイミングで引きチギってやろかな。とか…まで想像していたよ。

 

とにかく暴走族のマフラーの爆音より隣のお爺さんの大切な風鈴がマジでうるせぇ…。

 

あぁ…。眠れず熱はup、風鈴ノイズでストレス倍増…、体がダルい…、お爺さん…、嵐の様な雨風の風鈴も好きなんですか…?

 

僕には良く分からないよ…。

風鈴の良さが分からないんだ…。

 

風鈴がそれ以来僕は大嫌いになってしまった…。

 

あ。お爺さんは耳が悪いのかな…?

え。お爺さん生きてる…?

 

とにかく自分の体調を早く治して、巻物は覚えたし、軍艦巻きも覚えた。早く握りを教えてもらいたい…。

 

暴れ狂う風鈴は止まらないまま次の朝が来た…。

嵐はまだ終わっていない。

風邪の熱も下がらない…。お店に電話する気力もなくて…何にも連絡しないでアパートでグッタリしていたんだ。無断欠勤だな…。

 

誰も何も悪くはないのだけどさ…。

嵐の中の風鈴はマジでうるせぇ。

    

アパートの2階に住んでる人は皆風鈴が好きなんですか…?

 

誰も風鈴の暴れ狂っている音に何とも思わないなんて…。ホンマかいな…?

 

風鈴アパートに16歳の僕は初めて1人暮らしをしたけど…、オンボロアパートだし、諦める勇気を勉強させてもらったとポジティブに現実逃避をする事を学んだよ。

いらない勉強やねん…。

 

お昼頃、同僚の先輩が店長が握った寿司と、同僚が作ってくれた茶碗蒸し洒落た鯛と柚子の風味をキカせたお茶漬けを僕のアパートへ持って来てくれた…。

インターホンが無いからドンドンドンって、借金取りの集金みたいに薄っぺらいドアを叩いてきたよ。

 

「ちゃんと薬飲んで休んでる?早く治せよ。店長が持って行けってさ。皆心配してるから、ゆっくり治せよ。」

 

「あ。ありがとうございます…。わざわざ本当にすみません…。」

 

「あれ!?何かうるせーなこのアパート!」

 

「あぁ…はぃ。全然寝むれまへんよ…。隣のお爺さんの大切な風鈴みたいなんですよ…。10種類全部違う音がする風鈴なんだよって言ってた。」

 

「でもな、俺の寮はトイレは共同だし4.5畳だぜ。まだ恵まれていると思った方が良いよ。笑」

 

確かに…、4人の先輩達のアパートに遊びに行ったことがあるけど凄く汚くて廊下やドアを歩いたり開けたりする時にミシミシ、キイキキィーって今にもぶっ壊れそうな4.5畳で共同トイレ。風呂無しだった…。

 

嵐の中の風鈴に罪はないねん…。

 

だけど僕はそれ以来の人生今まで風鈴を買う事も、プレゼントする事もしないで生きて来たねん。

 

風鈴をあのお爺さんの様には好きになれへん…。

 

まだまだ僕は未熟なのかな…。と、つくづく風鈴を見掛けると思い出すねんから…。

 

もし僕のこのトラウマをあまり知らない人が居て風鈴をプレゼントして来たらどうしようかとビクビクしながら記念日を過ごしているのは事実やねん。

 

皆さん。素敵な風鈴の夢を見て明日もお互い頑張ろう!

コロナ気をつけて自分なりに楽しい時間を過ごそう!

僕は夏に向けてきゅうりを一杯育てて塩と胡麻油でバンバン袋叩きにして食べれる事が楽しみなんや。